障害福祉の監査とは|運営指導との違いと行政処分
出典: 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 企画課 監査指導室「指定障害福祉サービス事業者等に対する集団指導・運営指導マニュアル」(令和8年6月。以下「マニュアル」)PDF p.5〜8(https://www.mhlw.go.jp/content/260609-2.pdf)
運営指導と監査の違い
- 目的: 運営指導は、事業者が適正に運営できるよう支援・育成するためのもの。監査は、違反や不正の事実関係を明らかにし、公正かつ適切な措置を講じるためのもの
- きっかけ: 運営指導は、自治体が対象や日程を計画して行う。監査は、指導やその他の情報で、不正や重大な法令違反の疑いが認められた時
- 事前の通知: 運営指導は原則として実施予定日の1か月前までに通知が来る。虐待で利用者の生命・身体に危害が及ぶおそれがある時や、証拠の保全が必要な時など、調査が目的の時は、運営指導ではなく監査(立入検査)で速やかに対応する、とされています
- 性格: 運営指導の中の指導は行政指導で、相手の任意の協力によって実現するもの。指導に従わなかったことだけを理由に不利益な扱いをしてはならない、とマニュアルは行政手続法を引いて説明しています。監査では、法律にもとづく報告の命令や立入検査が使われます
運営指導が支援の場であることは、指導する側の心得にも出ています。確認が予定の時間内に終わらなくても、それを理由に事業者に時間外勤務を強いることはできない、とまで書かれています。送迎の時刻を気にしながら書類をめくり続ける必要は、本来ありません。
出典: マニュアル PDF p.6〜8・p.23・p.42
監査に切り替わる4つの場面
マニュアルは、運営指導の途中で次の状況になったら「直ちに監査へ変更」する、としています。違反や不正が明らかな時だけでなく、その「疑い」がある時もです。
- 人員・設備・運営基準に従っていない状況が著しい: 同じ誤りが数多い、長期に渡る、確認文書の不備で確認項目が確かめられない、虚偽の報告や答弁が疑われる、など
- 請求に不正がある: 架空請求のように、請求する根拠のない請求
- 不正の手段で指定を受けた: 初めから勤務する予定のない人を、勤務するかのように装って申請した場合など
- 障害者虐待等がある: 適切な手続きを経ていない身体的拘束等を含む
請求では、実際より長い時間区分で請求した(付増請求)ような例は、障害者総合支援法第8条の「偽りその他不正な手段」に当たる可能性があるので直ちに監査に切り替える、ただし解釈の誤りや単純な事務的ミスの可能性も含めて慎重に判断する、とあります。人員基準を満たしていないのに減算せずに請求していた場合も、単純なミスなどを除き、架空請求と同等の不正請求と認めざるを得ない可能性がある、と書かれています。
運営指導のあとから監査に進む道もあります。マニュアルの流れの図では、改善報告書が出ないと再提出を求め、無視などの場合は勧告、さらに改善されなければ命令・公示です。確認項目と監査への切り替えの関係は、運営指導で見られる書類は何年分かでも短く触れています。
出典: マニュアル PDF p.16・p.36・p.40〜41
監査で行われること:報告の命令と立入検査
障害者総合支援法第48条第1項により、都道府県知事または市町村長は、必要があると認める時、事業者(事業者だった者・従業者だった者を含む)に、報告や帳簿書類などの提出・提示を命じ、出頭を求め、職員に質問させ、事業所などに立ち入って検査させることができます。命令に従わない、虚偽の報告や答弁をする、検査を拒む、といったことは、それ自体が指定の取消し・効力の停止の理由に挙がっています(第50条第1項第7号・第8号)。
放デイ・児発などの障害児通所支援は、児童福祉法に同じ形の定めがあります(第21条の5の22〜第21条の5の24)。
出典: 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号。以下「障害者総合支援法」)第8条・第36条・第48条〜第51条(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000123)、児童福祉法 第21条の5の22〜第21条の5の24・第57条の2(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000164)
行政上の措置:勧告・命令・指定の効力の停止・取消し
- 勧告(第49条第1項・第3項): 人員や設備・運営の基準を守っていない時などに、期限を定めて勧告できる。従わなければ、その旨を公表できる
- 命令(第49条第4項・第5項): 正当な理由なく勧告の措置をとらない時、期限を定めて命令できる。命令は公示される
- 指定の効力の停止・取消し(第50条第1項): 人員の基準を満たせなくなった、給付費の請求に不正があった、不正の手段で指定を受けた、など13の場合に、指定を取り消すか、期間を定めて全部または一部の効力を停止できる
条文の主語は都道府県知事ですが、下のさいたま市の例のように、指定をした市が処分を行っている例もあります。行政指導と行政処分の呼び分けの自治体の例は、運営指導の指摘事項 よくある例で紹介しています。
不正請求の返還と加算金(返還額の100分の40)
障害者総合支援法第8条第2項は、事業者が偽りその他不正の行為で給付費の支給を受けた時、市町村等は、支払った額を返還させるほか、返還させる額に100分の40を乗じた額を支払わせることができる、と定めています。返還額が200万円なら加算金は80万円で、合わせて280万円です。放デイ・児発は児童福祉法第57条の2第2項に同じ定めがあります。
ただし、請求の誤りがすべて不正になるわけではありません。マニュアルは、単なる過誤(ミス)か意図的な不正かを慎重に判断し、不正の疑いが無ければ、自己点検と過誤調整(訂正)を促す行政指導、疑いがあれば監査、としています。基本報酬は、サービス記録の不備などの運営基準違反だけでは返還の根拠にならず、提供していないのに請求した、減算せずに請求した、という場合に不正請求と判断され、監査を経て返還が求められることがあります。
出典: 障害者総合支援法 第8条第2項、児童福祉法 第57条の2第2項、マニュアル PDF p.39
さいたま市が公表した例
さいたま市は令和6年8月22日、重度訪問介護と居宅介護の事業者に、指定の取消しと、不正請求額の返還・加算金の徴収を通知しました(取消しは同年11月1日付け)。無資格の人にサービスを提供させた、行っていないサービスを算定した、などの不正請求で、不正請求額8,966万4,302円、加算金(100分の40)3,586万5,720円、合計1億2,553万22円(令和元年7月分〜令和3年3月分)とされました。
事業者は審査請求をし、市は令和8年6月1日に裁決しました。不正請求の責任は事業者にあるが、市にも指導・監督上の懈怠という相当の帰責性がある、として、指定の取消しと、それを前提とする加算金は取り消すべき、不正請求で得た利益は当初の処分どおり返還されるべき、という内容です。処分に不服を申し立てる道はあり、それでも返還は残る、という例です。
出典: さいたま市「(令和8年6月2日発表)指定障害福祉サービス事業者の指定取消処分等に係る審査請求の裁決について」(https://www.city.saitama.lg.jp/006/014/008/003/015/003/p131134.html)
処分のあとに起きること
- 公示: 指定の取消しは公示されます(第51条第4号)
- 5年間は指定を受けられない: 取消しの日から5年を経過しない者は、新しい指定を受けられません(第36条第3項第6号)。法人なら、処分の通知の日の前60日以内に役員等だった人も含み、そうした人が役員等にいる法人も対象です(同項第12号)。取消しの理由への責任の程度などを考え、省令で除かれる場合もあります
- 処分の前に廃止しても同じ: 処分の通知の日から処分の日までに事業の廃止を届け出た者(相当の理由がある者を除く)も、届出から5年は指定を受けられません(同項第8号)
監査に進まないために(私たちの整理)
- 改善報告は期限までに、具体的に: マニュアルは「努力します」などの抽象的な表現は認めない、としています。終わっていない改善は「いつまでに何を行うのか」を書きます
- 請求の誤りは自分で見つけて直す: 職員が辞めた・休んだ月は、減算の要否を請求の前に確かめます
- 記録はあとから作らない: 確認文書の不備や虚偽の報告の疑いは、監査への切り替えの例に入っています
出典: マニュアル PDF p.38・p.40
この記事は国のマニュアルと法律、さいたま市の公表資料を読んで整理したものです。監査と処分の運用は自治体の要綱で細部が異なり、個別の事案は指定権者が判断します。所在地の指定権者の公表資料を確認し、必要に応じて専門家に相談してください。
「通知が来てから当日までの段取り表」と「確認される書類の一覧(7サービス)」を、メールアドレスだけで受け取れます(数分以内にURLをお届けします)。
議事録も計画書も、最後は職員が打ちます。その職員が怖がらずに道具を使い始める入口の60分を、研修の第1回「ICTって何? 怖がらずに使える"道具"の話」そのまま・無料で。11月16日(月)10:00〜11:00・Zoom。顔出し・発言は任意、聞くだけでも大丈夫です。参加しても、研修の申し込みは義務ではありません。
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この記事は、国の公表資料をもとにHappiter株式会社が要約したものです。監査と処分の運用は自治体の要綱で細部が異なります。所在地の指定権者の公表資料を確認してください。誤りを見つけた方は お問い合わせ からお知らせください。
