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生成AIに利用者情報を入れていい?福祉事業所のルール

2026-10-26書いた人: 茂呂史生(Happiter株式会社)
利用者の氏名・障害・病歴・家族の事情は、生成AIに入れない。まずこれを事業所の決まりにしてから使い始めます。障害があることや病歴は、個人情報保護法の要配慮個人情報です。個人情報保護委員会は、事業者が個人情報を含む指示文(プロンプト)を入れる時は利用目的の範囲内かを十分に確かめ、本人の同意なく個人データを入れるなら、提供事業者が機械学習に使わないこと等を十分に確かめるよう求めています。事業所に要るのは「使うな」の一言ではなく、入れない情報・使ってよい用途・確認する人を書いた1枚です。
出典: 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)(https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf)、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第2条第3項(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057)

個人情報保護委員会の注意喚起が、事業所に求めていること

個人情報保護委員会は令和5年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を出しました。生成AIサービスとは、質問や作業指示(プロンプト)に応えて文章・画像等を作るAIを使ったサービスのことです。

利用者の名簿や記録を、パソコンで検索できるように整えて事業に使っている事業所は、個人情報保護法の個人情報取扱事業者(個人情報データベース等を事業の用に供している者)に当たります。注意喚起は、個人情報取扱事業者に次の2つを求めています。

一般の利用者向けにも、入れた個人情報が機械学習に使われて正確または不正確な内容で出力されるリスク、応答に不正確な内容が含まれることがあること、利用規約やプライバシーポリシー等を十分に確かめること、の3つが挙がっています。

どれも「確かめる」が軸です。確かめる人を決めておかないと、誰も確かめないまま使い始めることになります。

出典: 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/)、同 別添1「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)、個人情報の保護に関する法律 第16条第1項・第2項

障害・病歴は要配慮個人情報。入れない情報を先に決める

要配慮個人情報は、本人に対する不当な差別や偏見などが生じないよう、取扱いに特に配慮が要る個人情報です。法律が挙げる病歴のほか、政令で、身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)などの障害があること、医師等が行った健康診断等の結果、医師等による診療や調剤が行われたこと、が定められています。支援記録・アセスメント・個別支援計画の中身は、多くがここに関わります。

基準省令も、従業者と管理者は正当な理由なく業務上知り得た利用者や家族の秘密を漏らしてはならない、と定めています。事業者には、辞めた職員も含めて漏らさないよう必要な措置を求めています。

情報の例理由・書き方扱い
氏名・呼び名・住所・生年月日・受給者証番号・顔写真本人がわかる入れない
障害の種別・診断名・手帳の等級・服薬・通院要配慮個人情報入れない
家族の病気・離婚・お金の事情家族の秘密入れない
支援の場面の様子・職員会議のメモ番号(A01)・年齢帯・役割名にして、場面と行動で書く置き換えてから
お便りのあいさつ文・研修資料の骨組み・会議の議題案・求人票の言い回し利用者が出てこない文章そのまま使う

置き換えの手順(連番ID・年齢帯・役割名)は、個別支援計画をAIで下書きする安全な手順の記事にまとめています。置き換えても、表の「入れない」は入れません。

出典: 個人情報の保護に関する法律 第2条第3項、個人情報の保護に関する法律施行令 第2条(https://laws.e-gov.go.jp/law/415CO0000000507)、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第36条(生活介護・就労継続支援B型・共同生活援助などは準用)(https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100171)、児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成24年厚生労働省令第15号)第47条(放課後等デイサービスは第71条で準用)(https://laws.e-gov.go.jp/law/424M60000100015)

「学習に使われない設定」と利用規約で確かめること

注意喚起が求める「機械学習に利用しないこと等」の確認は、事業所では管理者の仕事です。設定の名前や場所はサービスごとに違い、変わることもあるので、使うサービスの利用規約・プライバシーポリシーと設定画面で確かめます。確かめる項目の例です。

  1. 入れた内容が、提供事業者の機械学習に使われるか。使われない設定にできるか
  2. 入れた内容が、どこに、どのくらいの期間残るか。誰が見られるか
  3. 使うのは事業所が管理するアカウントか、職員個人のアカウントか
  4. 規約や設定が変わった時、誰が見直すか

学習に使われない設定にすれば全部が安心、ではありません。デジタル庁のガイドブック(主な読み手は行政職員で、業務改善で導入を考える人の参考にも、とされています)は、生成AIへの入力の機密性が守られないケースは機械学習以外にも多岐にわたるとして、規約や契約の精査と、十分なセキュリティ対策の確認を求めています。

もう1つ、AIの答えは正しいとは限りません。同じガイドブックは、学習データに無い情報を聞くと、根拠のない事実と異なる答えを返すことがある(幻覚・ハルシネーション)と例を挙げて説明しています。加算の要件や期限をAIに聞いた時は、厚生労働省・こども家庭庁や指定権者の資料で確かめてから使います。

出典: 個人情報保護委員会 別添1(https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf)、デジタル庁「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」(https://www.digital.go.jp/resources/generalitve-ai-guidebook)・本文PDF「機密性に関するリスク」の項ほか(https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/c1959599-efad-472e-a640-97ae67617219/fe843dc6/20240610_resources_generalitve-ai-guidebook_01.pdf)

事業所のルール1枚に書く6つ

禁止だけを書いた紙は、忙しい日に負けます。「何なら使ってよいか」まで書いておくと、迷った職員が自分で判断できます。

  1. 使ってよいサービスとアカウント: 管理者が規約と設定を確かめたものだけ。職員個人のアカウントでは利用者のことを扱わない
  2. 入れない情報: 上の表をそのまま貼る
  3. 使ってよい用途: 文章の言い回しを整える、研修資料や会議の議題の骨組みを作る、置き換え済みのメモから下書きを作る
  4. AIに任せないこと: 支援の方針、虐待や事故の原因の判断、制度の最終的な答え。AIの出力は下書きで、決めるのは人
  5. 確認する人: 外に出す前に読む人を決める。個別支援計画ならサビ管・児発管(サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者。計画をつくる責任者)、お便りや掲示物なら管理者
  6. 入れてしまった時: すぐ管理者に伝える。伝えた人を責めず、何を・どのサービスに入れたかを記録する

個人情報保護法は、事業者に、個人データの安全管理のための必要かつ適切な措置(第23条)と、従業者への必要かつ適切な監督(第24条)を求めています。ルールを1枚にして全員で読むのは、その一歩です。どこまでの措置が要るかは事業所の判断になるので、迷う所は個人情報保護委員会の案内で確かめます。

出典: 個人情報の保護に関する法律 第23条・第24条(https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057)

最初の一歩:管理者が1か月でやること

  1. 今週: 管理者が、事業所で使うサービスを1つに絞り、規約と設定(入れた内容が学習に使われるか)を確かめる
  2. 次の職員会議: ルール1枚を読み合わせ、「入れない情報」の表を印刷して、パソコンの近くに貼る
  3. 1か月後: 使った場面を出し合い、使ってよい用途と入れない情報を足し引きする

AIは、慣れるほど手放せなくなる道具です。だから、慣れる前に線を引いておきます。

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茂呂史生
茂呂史生 Happiter株式会社 代表。2005年から訪問介護・放課後等デイサービス・グループホーム・就労支援を自分の手で立ち上げ、4社を経営。著書『世界を変える子どもたち』。

この記事は、国の公表資料をもとにHappiter株式会社が要約したものです。個人情報の取扱いの判断は事業所が行います。使うAIサービスの利用規約と、個人情報保護委員会・指定権者の案内を確認してください。誤りを見つけた方は お問い合わせ からお知らせください。